vol.10

料理家・コラムニスト
山本ゆりさん

「まぬけ」という価値観に、今を生きるヒントがあるのでは?
今回10回目の連載でお話を聞くのは、料理家・コラムニストの山本ゆりさん。忙しない生活の背中を押してくれるような簡単レシピ、コミカルかつ細やかな文章で人気の山本さんに、料理と生活と「まぬけ」のよさについてうかがいました。

山本ゆり(やまもと・ゆり)

1986年大阪生まれ&在住。どこにでもある材料で誰でもできるレシピをブログやSNSで紹介している。2011年4月に初の料理本『syunkonカフェごはん』を出版(宝島社)。同シリーズは出版回数を重ね、最新作は「8」に。累計770万部を超える。レギュラー出演している『DAIGOも台所』(ABCテレビ・テレビ朝日系列)などTVにも出演。3児の母。
含み笑いのカフェごはん syunkon

料理って正解はないから 「まだいける!」って思ってほしい

山本さんのレシピ本を片手に料理を作ったりしています。『syunkonカフェごはん』シリーズは現在第8弾まで出ている人気シリーズですが、読み物としても面白いし、「自分でも作れそう!」と思えます。ブログに書いているような「〜ぐらい」って分量の表記なんかも、とても助かります(笑)。

山本センパイ
ありがとうございます!料理って正解はないじゃないですか。味の好みも正解がないから、たとえばレシピに「大さじ1」って書いてあったら、ちょっと入れすぎた時に「失敗した!」ってなってしまうと思うんですけど、「大さじ1ぐらい」って書いてたら「まあいいか」っていう感じで嫌にならないかなって。

ありがたい配慮です。

山本センパイ
ちょっと幅がある方が嫌にならずにできるかなっていうのはありますね。野菜の切り方一つとっても、人によって結構大きさも違うし。

出演されている『DAIGOも台所』で、ゲストの藤井隆さんが玉ねぎのみじん切りを割と大きめなサイズにしていて、「これぐらい大きくていいですか?」みたいに聞かれた時、山本さんが「食べたいサイズでいいですよ」っておっしゃっていて、いいなーと(笑)。

山本センパイ
迷いなくパーッと切っていただいたんで、それでいいか、みたいな(笑)。実際、作ってる時に野菜が大きくなっても小さくなってもいいと思うんです。レシピにもよりますが、もう、好みやし。

その寛容さがすごく印象的でした。

山本センパイ
ちょっとした失敗で「私あかんわ」みたいになってしまう人もいるから、それは全然大したことちゃうでって思ってもらいたいですね。塩味が濃くなってしまっても別によくない?っていう。「もし濃くなってしまったら、水の入ったコップを添えて、口内で薄めてください」か「後で水を飲んで、体内で薄めてください」とか、レシピに書いたり(笑)。自分自身がめちゃくちゃ失敗してきてるんで、ちょっとしたことなら「まだいける!」って言うようにしてますね。

料理本を「ファッション誌」 みたいに使っていた

今のようなお仕事をするに至った経緯を聞かせていただけますか?

山本センパイ
大学の3回生の時に、自分は料理本が大好きだったので、料理にまつわることがしたいなって思いました。そこで悩んでいた時に、当時出始めた料理ブログの存在を知って、自分でも始めてみたんです。

とりあえずブログを始めてみたという。それが2008年ですね。

山本センパイ
はい。自分が読んできた料理本の中に、ふざけた要素が入ったものは、ないなと思って。料理本をほんとにいっぱい持っていて、毎日読んでいたんです。小学校の時から読まない日がないくらいで、毎日寝る前も、お風呂でも、トイレの中でも読んでいて(笑)土日は書店に立ち読みに行って。それだけ読んでも、ふざけた料理本はなかったから、ふざけた要素のある料理ブログを毎日やっていたら、もしかしたらそういう本が出せるかもって。

読み物としてもすごく面白いと思います。書き方も内容も幅広いんですが、たとえばお友だちとのやり取りがそのまま載っていたりして、それがコントの台本みたいなんですよね。

山本センパイ
友だちとのメールとか、当時みんなあんな感じで書いてたんです。昔、「魔法のiらんど」で友達6人でホームページを作ってたんですけど、そこで書いてた文章もその感じで、なんかふざけたことを書いて、自分でツッコんでっていう。それの料理版みたいな感じで。

料理は、小さい頃からしていたんですか。

山本センパイ
はい。小学校3年生ぐらいからは土日の朝ごはんは自分で作っていたし、5年生からは中学に行っている姉のお弁当を作ったりもしていました。料理本を読み込みながら。

そうやって実際に作っていくうちに「これとこれは置き換えられる」というようなことがわかるわけですね。

山本センパイ
そうそう。自分のお小遣いの範囲内で、どうやったらこの同じようなものを作れるやろっていう風に。ある意味、ファッション誌的な感覚で料理本を使うようになってたんです。
ファッション誌って、そのままその服を買うわけじゃないですよね。全部買ったらとんでもない値段になるところを、ユニクロの似たような服で揃えたりとか。そういうことを料理でしてきたから、「これはこれに替えてもいい」とか「ある程度ざっくりでもいい」っていうのがわかるようになって。

その積み重ねが後のレシピにつながっていくと。

山本センパイ
子どもの頃は買った料理本に沿ってちゃんと作っていたんです。「今日はこのお菓子を作るぞ!」って決めて、一日がかりで作るんですけど、やっぱり難しいし、よく失敗して。めっちゃ大泣きして、チョコとか溶かし直すのにもう1回買いに行って「お小遣いもうない!」みたいなのを繰り返してたんで、それもあって自分のレシピは結構おせっかいなものになったというか。自分の経験から「ここはこう失敗するよ」って先回りで言っておくみたいな。

料理本をじっくり読んで試してきたからこそアドバイスができると。

山本センパイ
そうですね。これとか、読み過ぎて表紙ないんですけど(笑)、こういうの見ながらお菓子を作ろうと思うと、プロ用なのでめっちゃむずかしいんですよ。スポンジ1個でも33工程に分けて、めっちゃ細かく書いてて。チーズケーキに入ってる少量のパルメザンチーズも、ないと作れないんだと思って、お小遣いで必死に探して買いに行って「たっか!」と思ったりして。でも最初はどこで失敗するかがわからないというか、どこを外していいかがわからないんです。

はじめはとにかく書いてある通りにやっていたんですね。

山本センパイ
そうです。でも何冊か買ったら「カスタードクリームの材料が本によって違うやん」とか、気づくじゃないですか。なのでその間を取るようになっていって、「ほんならこれは抜けるんや」とか「ここまで材料を減らしても固まるんや」とか、だんだんわかるようになってきました。

「毎日せなあかん」を、 楽しくするには

山本さんは育児もされていて、お仕事もお忙しいと思うのですが、生活の中でどんな風に料理を楽しんでいますか?

山本センパイ
いや、そんなん言いつつ自分では楽しめない時も多いです。外食しますし、惣菜とかも使いまくりですけど、それでいいのかなと思ってます。選択肢が多い方がいいかなと。

そう聞くと気が楽になります。

山本センパイ
「簡単料理ですら作れないんや、私だめやな」みたいに思っている人もいるかもしれないんで、「私はめっちゃ買います」みたいなのはどんどん言っていくし書いてますね。だって、市販の餃子とか、作る意味を見失うくらい安いですよね(笑)。コロッケなんか最たるもんですよね。「どんだけ安いねん!」みたいな。そんで美味しいし。

「疲れたなー」という時はできあいの惣菜や外食にもどんどん頼るわけですね。

山本センパイ
元気まんまんな時でも頼ります(笑)。「それが食べたい」っていう時は全然買います。

毎日がんばって料理できるわけじゃないですもんね。

山本センパイ
なんなら、きっちりちゃんと献立を作って出した時よりも、ごはんとふりかけと鮭フレークとか出して「今日はおにぎりバーティーでもいい?」とか言った方が子どもも喜んだりするんですよね。

「おにぎりパーティー」って言うだけで楽しい気分になりそうです。ちなみにレシピを作る際に気をつけることはありますか?

山本センパイ
手を抜けるところは抜いていいと思うんですけど、これ以上手を抜いたら美味しくないというのはあるじゃないですか。ただただ簡単な方向にもっていくと、楽しくもなくなっていく気がして。

せっかくの食事が悲しいものになってしまうというか。

山本センパイ
そうなんですよ。その加減は気をつけています。やっぱり「美味しい」が一番最初に来て欲しい。料理が作業と義務にならないようにというか。料理って、生活のための「しないとあかんからしてる料理」と「趣味で楽しんでする料理」の2つがあって、私は結構、「毎日せなあかん」っていう人に向けたレシピを作ることが多いんですけど、それがもし楽しく思えたら、毎日が楽しいじゃないですか。

本当にそう思います。

山本センパイ
だから「作れそう」って思ってもらうための加減が難しいんです。料理はわかりやすさと面倒くささが紙一重で、たとえば「焼く」しか書いてなかったら、一見すると簡単そうやけど、いざ実際に作ると「どうやって焼くんやろ」ともなるっていう。でも、温度に時間に見た目に焼き方に…と詳しく書き過ぎると、逆に遊びがなくて、こうじゃなきゃアカンみたいな難しい感じになるので、「めんどくさ!」ってならない部分で止めるっていうのは、毎回レシピを作る時に気をつけますね。

すごく繊細な配慮があるんですね。

山本センパイ
あと、本の注意書きは結構気をつけています。たとえば「重さはきっちり計って下さい」ではなくて、「玉ねぎ半分って書いてあるのを一個入れちゃえって入れたら失敗しますよ」みたいな言い方にしてみるとか。どうやったら軽い気持ちで試せて、しかも大事な部分は守ってもらえるような書き方にするかと。

そのあたりの表現がすごく多彩ですよね。

山本センパイ
私のブログのコメント欄もそうなんですけど、「他人の不快になる言葉はNGです」みたいな言葉ってちょっとキツいかなと思っていて。それを「無人の野菜売り場みたいにみんなの善意でなりたっているんで、自由に書いてもらっていいですよ」って書くと、意外とみんな自分で気をつけようと思ってくれるんです。

そういう雰囲気がレシピ本にもあって、だから料理初心者にも手に取りやすいんでしょうね。

山本センパイ
ありがとうございます。ただ、「料理本はこれしか持ってません」とか言われたら「……これしか?こんな本で大丈夫⁉」って(笑)。小心者やから「それやったらこれ一冊で完結できるようにしないと!」みたいに思って詰め込んでしまうところはありますね。

まぬけでも「もうええわ」 と思えるのが、最強?

「まぬけ」という言葉に対してどんなイメージを持っていますか?

山本センパイ
むっちゃ綺麗な家にいったり、すごくキッチリしてる人といると、ちょっと緊張するじゃないですか。裸足で上がったらあかんよな?みたいな(笑)。でも、相手がちょっとまぬけな感じやったら、一緒に居て楽ですよね。まぬけって肩の力が抜けて楽みたいな、いい印象はありますね。

「これはまぬけだな」って感じるようなできごとは日々ありますか?

山本センパイ
あり過ぎて……あ、昨日、私の母がまぬけでしたね。うちの3歳の子がYouTubeを見てて、母も横にいたんですけど、「おばあちゃん(動画を)スキップして!」って言ったら、母が本当にその場でスキップし出して(笑)。子どもが「早くして!」って言ったら、めっちゃ真顔でぶわーって早いスキップで部屋をまわり出して(笑)。私が「そういう意味ちゃうで」って言ったら、「わーっ!恥ずかしい!」って言ってましたけど、うちの母、だいぶ天然なんで。

それは、素敵な話ですね……。

山本センパイ
どこがや(笑)。でも、そういう人がいてくれるといいですよね。そういう「ぬけ」のある人って、みんなを幸せにするっていうか。

山本さんご自身はそうではないんですか?

山本センパイ
いや、私はぬけ過ぎて迷惑をかける(笑)。それこそ、夫と付き合った当初は、多少ぬけてても「かわいいな」で済んだものが、だんだん「さすがにええ加減にせえよ」ってイライラされる。だからもう、それを通り越すのを待ってますね。あと何十年もしたら「もう、これ治らんねんな」みたいに思ってもらえるかなって。

お忙しい日々の中で、ご自身の息抜きはどのようにされていますか?

山本センパイ
やっぱり友達と飲みに行くのは大事ですね。もちろん夫がおってくれるからなんですけど。あと、自分のブログやインスタのコメントを読む時間が癒しですね。毎日コメントを読みながら寝るのが楽しみで。

山本さんは大阪育ちですが、大阪という土地柄は影響を与えていると思いますか?

山本センパイ
あると思います。子どもでもツッコんでくるし、赤ちゃんの時から、何かがウケると何回もやる、みたいな。テレビの収録でも、東京のバラエティー番組だと、カットがかかったら静かになるのが、大阪はカットがかかったら余計に喋りだすとか(笑)。でも、東京は東京で楽しいんやろうなとは思います。行った友達、誰も帰ってきませんから(笑)。

お住まいの中に「ぬけ」を意識されたりしますか?

山本センパイ
むしろ、きっちりしたいのにぬけてしまうっていう感じですね!絶対に全部が片付くことはないから。

仕方ないですもんね。料理で失敗したりして落ち込むことも時にはあると思うんですけど、そういう時はどんな風に考えていますか?

山本センパイ
料理が仕事になってからは、自分が失敗したら「誰かが同じ失敗するのを一個防げた」と考えられるようになりましたね。で、本当にめちゃくちゃ失敗したらそれを写真に撮ってブログに上げます。

ポジティブな方向に。

山本センパイ
一回、レンジでカレーを温めようとしたら耐熱ボウルが消えた時があって、バッキバキに割れて。レンジ開けたら中が全部カレーやったんですよ。「え?ボウルなくなった」みたいな。そこまで派手になってくれたらいいんですけど、地味にただマズいのが一番イヤですね(笑)。普通に落ち込みます。

でも「まあいいか」と開き直るということですよね。

山本センパイ
年齢を重ねるごとにそう思える気がします。昔の方が繊細やったなと思うんですけど、どんどん「もうええわ」みたいになってきて、こうやって人はおばちゃんになって、楽になっていくんや、って……。おばちゃん最強説みたいなのが、自分の中にあるんですよね。

あの境地を目指していらっしゃるんですね。

山本センパイ
本にも書いてるんですけど、大阪のおばちゃんは実は気遣いの塊やと思うんです。最初はみんな演じているっていうか、相手に気を遣わせへんようにおばちゃん感を出し続けてたら、いつか戻れへんくなってる(笑)。でもそんな自分も見せていく方が楽かなと思います。

自分のまぬけさをすすんで見せてしまう方が、かえっていいのかもしれませんね。

山本センパイ
その方が敵がいなくなるというか。「こいつを叩いてもしょうがない」ってなるのかもしれないですね。

最後に「まぬけのセンパイ」として、読者のみなさんにメッセージをいただきたいです。

山本センパイ
自分がまぬけ過ぎて「お前みたいになりたくないわ」って感じだと思うんですけど、まあ、肩ひじはらずに、ダメなところがあっても、そういう人がいる方がみんな安心するんで。料理って毎日のことなんで、いくら失敗してもいいし、最終的には食べられたらいいので。味の濃い薄いも、最後はお皿の上とか口の中で調理すればいいんですよ(笑)。料理は運動とかと違って正解もないし、「できない」っていうのがない。自分が美味しいと思ったらいいし、好きなようにやったらいいんちゃうかなって思います。

ありがとうございました!

間貫けのハコ

間があって、貫けがある。間貫けのハコへ、おかえりなさい。

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