26歳で建てた余白のある家で、未完成を楽しむ。
Tさんご家族
エリア:神奈川県藤沢市
シリーズ:WONDER DEVICE
家族構成:3人
神奈川県・藤沢市。海までは車で10分くらい。ゆるやかな住宅街の端っこ、ちょっとだけ地形がうねる場所に、Tさん家族の家がある。黒く塗装された木の外壁に、ガルバリウムの輪郭。ログハウスみたいな温もりと、少し工業的なムードが同居している。ふたりが家を建てたのは、まだ26歳のときだ。「最初に見たのは雑誌でした。アウトドア雑誌の表紙で、一目惚れして。でもその頃は社会人1年目で、自分には関係ないと思ってました」。そう話す詩乃さんが、まだ結婚前にその話を大郎さんにしたのが始まりだった。「じゃあ結婚して家建てようって(笑)。家賃もったいないし、みたいなノリで」。軽やかすぎる一言だけど、たぶんこういう決断は、このくらいの勢いが必要だ。
余白のある箱を選んだ理由。
最初は総合住宅展示場も見て回った。白い外壁のカリフォルニアっぽい建売も候補に上がっていたけど、詩乃さんの中ではどこか違ったらしい。「白い家も素敵だとは思うんですけど、自分が建てるとなると違うなって。で、これ知ってる? って雑誌を見せたんです」。そこからの動きは早かった。藤沢のBESSの展示場へ行き、その翌日には東京の展示場へ。さらに、たまたま近所に建っていた格好いい黒い家が同じシリーズだと知って、ほぼ決まり。「外の色味がほぼ一緒で。いいじゃん!ってなりましたね」。選んだのは、仕切りのほとんどないシンプルな箱、「WONDER DEVICE」。なかでも期間限定で販売されていた、総床面積が約92平米のモデル。「僕、昔から廊下が無駄だと思ってて。だから廊下が少ない構造にも惹かれましたね」。ただし同時に「ちょっと小さいな」とも思っていたというから面白い。一方で詩乃さんは「全然小さいと思わなかった」。同じ空間でも、見え方は少し違う。でも、その余白のある箱というコンセプトに、ふたりともちゃんと惹かれていたし、“小さく建てて、大きく暮らす”というBESSの提案にはしっくり来ていた。家を建てる選択において、必ずしも大きいサイズを求めるわけではないのが、現代の20〜30代に共通する感覚のひとつとも言えそうだ。
土地探しは大船から大磯あたりまで広く見た。その中でここを選んだのは、ほとんど直感だという。「階段を上がって、何もない土地を見たときに、この感じいいなって思ったんです。後ろに森があって、空気も含めてイメージができたというか」。工事はそれなりに大変だったけど、ふたりにとって完成はゴールじゃなかった。「できたときも、ここからだなって思いました。完成したっていうより、箱ができたって感じ」。
引っ越した当初の室内はほぼ空っぽ。家具も持ち込まず、前の家のものは手放した。そこから少しずつ手を入れていく。棚や収納、家具の多くは大郎さんのDIYだ。「シンプルだから、DIYのものを入れても破綻しないんですよね。生活に合わせて変えられる。子ども用のスペースが必要なら作ればいいし、いらなくなったらまたバラして別のものにすればいい」。完成していないことが、むしろ自由を生んでいる。最初から決めすぎないほうが、暮らしはちゃんとフィットしていく。
遊びの続きみたいな家。
最近はカメラにハマっている。出かけることもあるけれど、この家の中でもシャッターを切る。「なんか普通に撮ってるだけで雰囲気がいいんですよね」と大郎さん。無垢の木の質感や、光の入り方、ちょっとラフに置かれた家具や道具。それらがフレームに収まると、どこか絵になる。一方で詩乃さんは、去年から日記をつけ始めた。「子どもの成長を見ていると、去年の今ごろ何してたっけ、って思うことが増えて」。書くのは、寝かしつけが終わったあとの静かな時間。2階のソファに座って、少しずつ言葉を残していく。そのスペースの壁は、最近自分たちで白く塗り替えたばかりだという。「ちょっと変えるだけで、全然気分が違うんですよね」。
ふたりともアウトドアが好きで、キャンプもよく行く。子どもが生まれてからもそれは変わらない。「3〜4ヶ月くらいのときから連れて行ってますね」。家の中にあるものも、その延長線上にある。テーブルも椅子も、家とキャンプを行き来する。「インテリアとして選んでるというより、どっちでも使えるものを選んでる感じですね」。だからこの家は、アウトドアを持ち帰る場所でもある。
遊びに来た友人はだいたい「めっちゃいいやん」って言うらしい。「別荘みたいだって。マンションに住んでる友達からすると、ホテルっぽいですよね(笑)」。でも、その非日常感はどこか日常と地続きだ。子育てのしやすさも、そのひとつ。「どこにいるかなんとなくわかるんです。音とか気配で。だからずっと見てなくても大丈夫。死角が少ないのは安心材料ですね」。
住み始めて2年。まだ完成とは呼ばないし、たぶんこれからも完成しない。「手がかかるんですよ。でも、それが魅力というか」。出来上がった家に住むんじゃなくて、暮らしながらつくっていく。余白を残して、小さく始めて、大きく暮らす。そのほうが、これから先の変化にはちょうどいい。未完成を楽しめる人にとって、この家はかなり正直だ。手をかけた分だけ、ちゃんと返ってくるから。