
手間ひまの先にある、小さな幸せ。
発酵も道具も、ゆっくり育てる喜び
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井上咲楽

時間が生む独特の風合いや深みを愛する人にとって、経年劣化はむしろ「経年愉化」。
この連載では、経年をポジティブに受け止め、自分だけの楽しみ方を見つけている人を訪ねます。
今回は、料理好きとしても知られるタレントの井上咲楽さんが登場。塩麹やゆず胡椒といった食品を育てながら、鉄フライパンや木べらなどの料理道具への愛着も深めています。「焦げや傷さえも愛しい」と語る井上さんに、発酵や道具とともに育てていく暮らしの魅力を伺います。
\ 本編はYouTubeにてお楽しみください! /
苦手だった料理が大好きに。
生き物みたいな発酵食品の魅力

井上さんが作った塩麹。塩の代わりに使ったり、鶏肉を漬け込んだりと、今では料理には欠かせないアイテムになっているそう
実は、最初は料理が好きじゃなかったんです。実家でも作ってたけど、妹たちに全部食べられちゃうのがイヤで(笑)。でも、上京して一人暮らしを始めたときに、母からもらったぬか床や塩麹などの発酵食品を育てるようになって。それがめっちゃ面白くて、同じレシピでも味が違うんですよね。空気や手の常在菌とかで味が変わると知ってから、「発酵って生き物みたいで奥が深い」って感動して。失敗しても「まあいっか、またやろ!」って思える、その感じも好きですね。そうやって自分で育てたものを料理に使うと、身体も心もなんとなく調子がいい。食品を育てることの楽しさを知れたおかげで今は料理が大好きだし、料理をする時間が癒やしにもなっています。
焦げや傷も愛おしい。
両親から贈られた道具たち

井上さんが愛用する鉄のフライパン。お母さんの愛がたっぷり詰まっている
料理を始めた頃は、100均の道具ばかり使ってたんです。だけど、だんだん料理が楽しくなってきて、母から誕生日にもらった鉄フライパンを使い始めたら、もう手放せなくなっちゃって。焦げたり、手入れが面倒だったりするけど、それもまた育てている感じがして楽しい。父が作ってくれた木べらも、うっかり焦がしちゃったり、傷をつけちゃったり。でも、それがあるからこそ、余計に愛着が湧くんですよね。お気に入りの道具が増えたことで、キッチンに立つ時間がますます好きになりました。
手間ひまかけた分だけ、
自分の暮らしを好きになっていく

正直、料理ってやらなくても生きていけるじゃないですか。コンビニでも外食でも、選択肢はいくらでもありますし。だけど、わざわざ時間を作って、食べることに手間をかける。それが私にとっては、すごく豊かな時間だなって思うんです。道具も同じで、安さで選ぶんじゃなくて、長く大切にできるものを選びたい。ちょっと汚れたり、壊れたりしても、それを直したり、手をかけながら使い続ける。そんな風に一緒に時を重ねてきたものに触れると、やっぱりうれしくなります。これからも、小さな積み重ねを楽しみながら、暮らしていけたらいいなと思っています。
井上咲楽
タレント
1999年10月2日生まれ、栃木県出身芳賀郡益子町出身。2015年、『第40回ホリプロタレントスカウトキャラバン』特別賞を受賞し、芸能界デビュー。現在は、『サイエンスZERO』(NHK)でMC、『新婚さんいらっしゃい!』(ABCテレビ)の8代目アシスタントを務めるなど、バラエティ番組を中心に幅広く活躍中。国会傍聴やマラソン、料理など多趣味としても知られる。2024年には、初のレシピ本『井上咲楽のおまもりごはん』(主婦の友社)、初のエッセイ集『じんせい手帖』(徳間書店)を上梓。